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フィギュアスケート2010年NHK杯 [みたもの、読んだもの]

チーム牛タン復活の旗。
全国のひとに、届いたと思う。武史の跡目を襲い、その魂を受け継ぐ仙台の糞餓鬼(仙台弁では「野郎っこ」)の勇姿が。

フリー最初のクアッドで、その心意気は充分に伝えることができるはず。ジョニーに見込まれるだけの、女性的な要素を取り込むことのできる表現力を持っていても、一面的な耽美に向かうわけではない。その喧嘩腰の姿勢はジェーニャにも、そして直接の先輩筋にあたる武史にもつながる。
4位の結果は仕方がない。売り出しを急ぐ必要はない(スタミナ不足の解消が先だ)。それでもTVの画面越しにその演技をみた視聴者は、振ってみせたその旗を忘れることはないだろう、と思う。
それでもまだ、羽生結弦はこれからだ。この先へ。

ぼくは多分、ここでアボットを褒めたことはない。堅実だけど地味なスケーターだった彼は、正直ぼくの好みではぜんぜんない。——云い換える。なかった。
つれあいの云うように、コーチを務める有香さんの力、なのかもしれない。でも堅実さ、誠実さを表現として積み重ねることが、こんな静謐な感興を湧き上がらせるプログラムを生み出す結果に至ることができる、なんてことは知らなかった。エヴァンに通じる、(基本になるスケーティングスキルの充実を要求する)アメリカ的な素朴な上品さの表現。じつはこの大会でいちばん心を動かされたのが、彼のフリーだった。

アモディオ、面白いぞ。キャンディロロから続くフランス伝統芸の伝承者としては大成するかも。それだけ、かもしれないけどね。

でまぁ、今大会の男子で大輔はひとりだけメダリストで、まぁ横綱。
世界で高橋大輔にしかできないプログラムだったのは間違いないけれど、でも(贅沢を云うと)まだできあがってない。と云うか、それ以前にまだ大輔自身の身体が「勝つためにリンクに入っている」コンディションになってない、のかもしれない。端的に云うと、脂っ気が足りない。
フリーでクアッドを降りてみせたのは貫禄だけど、今大会は若い力が存分にその存在感を発揮してみせた結果になった。貫禄だけでは勝てやしない。
いやまぁ、それはこれから取り戻してくるに決まってるんだけどね。そこが見たいし、見させてもらう。

で、女子の横綱、浅田真央。
プログラム的にはもう去年みたいな(ある意味余分、とも云える)チャレンジは今期はない。で、スロースタートも相変わらず。でもこのタイミングでこれだけしかできあがってない、ってのはどうなんだろう。
わからない。評価がむずかしい(mixiあたりの「真央ちゃんファン」溜まりではどんな話になってるのか興味深くはあるけれど、ひどく気色悪いものを読むことにもなりそうなのでまだ覗いてない)。でも去年みたいに(個人的に)完成型を見せてもらいたいプログラム、では今期はないので、こんな感じならまぁちょいと今期は真央には冷淡になってしまうかも。
いずれにせよ、後ろから佳菜子が来ている。何年か前の荒川静香の場所に置かれているようにも、見えなくはない。

それよりもなによりも、アシュレイが今期ひどく綺麗になったように見える(まぁそりゃ絵画的な意味ではそもそも美形ではあるけど)。綺麗になった、と云うとひどく軽い云い方に聴こえるだろうな、みたいなことはわかっているけれど、どっちにしろこちらは放送を介在させた映像しか見ていないので、それは演技上の姿での評価になる。
でもっていっしょくたにしてもいいのかどうか、レイチェルが逆にその魅力をいくぶん減らしているように見える(エミリーが出てこないいま、チアリーダー的アメリカ娘典型のポジションは完全に彼女ひとりの双肩にあるのに)。ぬけぬけとした安定感が絶対的な基盤なのに。
でもまぁアメリカは層が厚い。アレクサンドラの真の後継者たる長洲未来の登場を待たないと、そもそも議論は始まらない。

でまぁ話は結弦で始めた。そう云うわけで当然、佳菜子で締める。
同年齢のころの真央が持っていたような派手さ、トピック性はない。それでも、技術的な面で女子シングルのフィギュア選手がこの数年実現してきたような進歩は、完全にキャッチアップしてみせている。なにひとつ、臆するところはない(いやまぁ色気、みたいなものはあるんだけど、それは残念ながらひとりだけを例外としてチーム味噌カツの伝統にはない)。今期はひょっとして闘わなくてもいいのかもしれないけれど、でもそれだけのものはみんな、もうすでに持っている。
村上佳菜子と云う選手がここからどこに向かうのか、はよく見えない。現時点ではまだ、よくも悪くも武田奈々のような愛されかたしか見えない部分は正直ある。
でもシニア初となる今期、ぼくは彼女の(きっとあるはずの)「凄さ」が見たい。結弦がどこまで行くか、と云うのと併せて、当面の今期最大の関心ごと、ではあるのだった。
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たこい

いや〜。アボットよかったよねえ。途中から息を詰めて見守ってしまったよ。
by たこい (2010-10-24 19:50) 

pooh

>たこいさん

ちょっと考えてみると、あぁ云う演技ができる選手ってあんまり思いつかないんですよね。少なくとも日本人にはあんまりいない。
こう、変な云い方をすると、間抜けなくらいの純朴な真摯さを表現できるのはやっぱりアメリカ人で、そうなるとエヴァンか彼か、って話のような気がします。
by pooh (2010-10-24 20:48) 

OSATO

地元びいきとしてはやっぱり羽生くんだろなぁ、これからが楽しみ。
何か我が子の成長を見守る親心というのが湧き上がってきます。まあかつて本田クンでもそうだったんだけどね。
まずは今シーズンが終わるまでに、どれだけ成長するのかをしっかり見届けたいと思います。
by OSATO (2010-10-24 22:22) 

pooh

> OSATOさん

ちょっと鮮やかすぎるシニアGPデビューでしたけど、シーズン通してこれでいける、みたいにはさすがに思えないんですよ。でもそれはしかたのない部分で。

> どれだけ成長するのか

ぼくもここに注目、期待です。
by pooh (2010-10-25 07:41) 

aso

はじめまして、こんにちは。
真央選手はあまりお好みではない様子なのでアレですが、「気色悪い話」ではないと思うので、書き込ませていただきます。
今季は彼女はオフから「全種のジャンプの矯正」に取り組んでいます。

ルッツの踏み切りの矯正や苦手のサルコウもフリーの構成に入っているし、
フリップは踏み切り時の体の沈みやハイキックをなくすなど大改造中です。
アクセルも飛ぶ前の「ため」が少なくなっています。
こちらで嫌われている「よいしょ感」や「着氷の流れなさ」を直すわけです。

ジャンプ矯正は難事業なので1~2シーズン潰す覚悟が必要だそうで本人もソチ五輪を今度こそ万全な状態で迎えるための思い切った決断だと思います。
やっぱりご不快でしたら面倒ではございますが削除してくだいませ。
by aso (2010-11-09 16:28) 

pooh

> asoさん

いらっしゃいませ。

> 真央選手はあまりお好みではない様子なのでアレですが

あぁ、でも、べつだん「真央が嫌い」みたいなことはないんですよ(そんなこと1回も書いたことがないはず)。もっと好きな選手がいる、って程度の話で、去年はほとんど絶賛に近い(つもりの)エントリも書いてます。
ただ真央のファンにはどうも、苦言に近いことが書かれること自体許容できないひとがたくさんいるみたいで、なのでそのあたりには近づきたくないなぁ(でも書きたいことは書きたいしなぁ)みたいなあたりでした。

> 今季は彼女はオフから「全種のジャンプの矯正」に取り組んでいます。

そのあたりの話は聞き及んでいます。具体的な内容までは把握してないですが。

> こちらで嫌われている「よいしょ感」や「着氷の流れなさ」を直すわけです。

そのあたりが解決されれば、ぼくが個人的にネガティヴな印象を受けている部分はそうとう解消されそうな感じですね。ただ、もう聞くだに、とてつもなくたいへんそうではありますが。

> 本人もソチ五輪を今度こそ万全な状態で迎えるための思い切った決断だと思います。

ちょっとあれな書き方ですけど、場合によっては今期は捨てシーズンになってもしかたがない、みたいな感じなのかな。
それはそれで考え方だし選択だと思いますけど、そうなると今度はいまのファンのみなさんが離れていってしまうのがちょっと心配になったり(かつての荒川静香ファンのように「耐える」とか「我慢する」とか云うのに慣れてなさそう)。よけいなお世話ですけど。
by pooh (2010-11-09 21:38) 

aso

poohさま こんばんは。

お返事ありがとうございます。

「1~2シーズンかかる」というのはオフにジャンプコーチをしていた長久保コーチのコメントです。真央選手は「世界選手権には最高の演技が出来るように」とは言っていました。

今シーズン丸々潰れるがどうかは「やってみないとわからない」状態ですね。
ロシェット選手がジャンプ矯正していた時期も成績が低迷していたし、安藤選手がフリップの踏み切りを直した時も得意のルッツが狂ったりしていたので
難しいのは間違いないと思います。
でも、ジャンプ矯正そのものが原因でダメになった選手はいないような気がします。ただ練習を頑張りすぎての怪我に注意が必要ですね。

>いまのファンのみなさんが離れていってしまうのが心配

そういう方々もいるかもしれませんが、皆が「常勝真央」でなければ価値が無いと思っているわけではないと…。
ただ「真央は終わった」的な報道の数々に苦しむ人は多そうですね。
私はソチまでひたすら耐える覚悟です。それだけの愛はございます笑

ご本人はアスリートだから成績不振の時に叩かれるのは覚悟していると思うんですよね。
真央選手が報道で傷ついたのは2008年の韓国GPFで優勝した時に色々言われた事らしいです。読売新聞の記事ですが「一時完全にやる気を失った」と書かれていました。そこから立ち直りましたからきっと…。


by aso (2010-11-09 23:32) 

pooh

> asoさん

> 「やってみないとわからない」状態ですね。

まぁ、それはそうなんでしょうね。それを「いま」やる、と云う決断が、どんなことを見越したものなのか、と云うお話なんでしょう。

> ただ練習を頑張りすぎての怪我に注意が必要ですね。

これはそうですね。真央にはひどく頑丈な印象がありますけど、そう云った話ではないですもんね。

> 皆が「常勝真央」でなければ価値が無いと思っているわけではないと…。

ほんとに、そうであってほしいと思います。

> 私はソチまでひたすら耐える覚悟です。それだけの愛はございます笑

「天才肌」のニュアンスそのまま、乱高下する成績に悩まされ続けた「荒川静香ファン」と云うひとたちもかつて存在しました(うちのつれあいがそうです)。真央のファンもなんと云うか、同種の打たれづよさみたいなものをもって応援し続けてくれればなぁ、みたいに思います。
by pooh (2010-11-10 07:32) 

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