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ヒーロー [世間]

朝日新聞デジタルのカストロ前議長が「お別れ演説」 キューバ共産党大会と云う記事を読んだ。

夭逝したチェとは対照的に、フィデルは90歳になんなんとするまで生き延びた。劇的で英雄的な死と、老いて病を得ての引退。チェの肖像はキューバ国内にあふれているけれど、フィデルのそれはない(自ら禁じたわけなのだけれど)。
まるで、いつまでも若々しい姿を見せつけるスーパーマンと、歳を重ねた姿を闇に隠すバットマンの対比のよう。そう云えば、マッチョな豪胆さと狂気じみたパッション、怜悧な計算ができる頭脳と苦味のあるユーモアのセンス、と云ったあたりで、似ていると云えば似ているかもしれない。

いまやアメリカン・コミックのスーパーヒーローは、善としての存在であるがゆえにつねに「善とはなにか」と云うテーマと向かい合わざるを得ない存在になってしまっている。複数の善がなまなましく対立するストーリイラインも、いまでは一般的だ(そういえばそろそろ、露骨にそのことを主題にしたマーベル映画が公開されるんだっけか)。
善をなそうとするもの同士の対立。それが世界のふつうの姿だ、と云うのをあたりまえに理解するようになったのは、いつからだろう。

あらゆる角度から見て善であるヒーローなどいない。それでも、強大な相手に立ち向かう弱きものたちにとっては、フィデルがヒーローに見えるのはしかたがないのだと思う。それを望んでいるようにいつも見せかけながら、ほんとうはみずから望んだことなどないのだろうけれど。

ともあれ、彼はこれで暗殺を心配せずに眠りにつくことができるようになるのだろう。半世紀以上ぶりに。
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コメント 7

技術開発者

こんにちは、poohさん。

的を射ているかどうかわからないことを書きますね。

独裁者に抵抗し、そして倒した者がやはり独裁者になってしまう。ある意味で不思議だよね。独裁者に抵抗している時には、心のどこかに「民主共和制への夢」を持っていたかもしれないのにね。

でもね、最近思うんですよ、「独裁政治より悪い状態がある」ってことをね。それは「無政府状態」ということだとね。秩序も破壊されているけど、秩序回復の道も破壊されている状態は、たぶん、独裁制の状態よりも不幸なんだろうということ。

悪しき独裁体制はその体制を守るために民主共和制の芽を摘みとるのね。人材も摘み取るし、国民の意識の中からも自律的な部分を摘み取っていく。そして、摘み取りを免れた者たちが必死に戦って独裁者を倒したとして、そこに見出すのは「独裁制に慣れた国民」でしかない。

そのとき、独裁者を倒した者に残された道は「新たな独裁者」となる道しかない。その道以外には「無秩序な無政府状態」しかないのだから。

独裁を続けながら「民主共和制を育てる」という道があるともいえるけど、これはとてつもなく難しいのだろうと思います。その独裁者がある意味で「国民のためを思う」面を持つほど、独裁制に慣れた国民は「頼り切ってしまう」面がある、かといって、悪しき独裁者となることも選択できるわけではない。

そういう意味で、独裁を続けなくてはならない独裁者というのは不幸だと思うのですよ。

by 技術開発者 (2016-05-10 16:24) 

pooh

> 技術開発者さん

おっしゃるような状況は、たぶんいくぶんかはキューバにはあったんだろうなぁ、みたいには思います。
それは苦難の道を歩くなかで、ちゃんとした民主主義がどうしても持ち合わせる不効率さを許容できなかった、と云うことかもしれないし、もっと風土的なものかもしれない(って感想はガルシア・マルケスに引きずられてるだけかもですが)。

その意味でおっしゃるようにフィデルは不幸であったかもしれません。ただ、そう云う不幸を自ら選択するような(なんと云うか、ヒーロー体質の)ひとなのかもなぁ、みたいに思ったりもします。独裁者として得られたのはいくぶんかの(でも偽りのない)国民の敬愛だけで、それだけで充分だって云う人間だって存在しうるのかもなぁ、みたいにも思いますし。
by pooh (2016-05-10 16:45) 

技術開発者

こんにちは、poohさん。

>ただ、そう云う不幸を自ら選択するような(なんと云うか、ヒーロー体質の)ひとなのかもなぁ、みたいに思ったりもします。

 比較にならない小さな事例だけど、私は潰れかけている労働組合の役員をしょっちゅうやっている人なんですね。でもって、「独裁に近づいているなぁ~」なんて嘆くんです。
 そんなに熱心な訳でもないけど、人に「頼む、やってくれ」と言われるたびに役員やってりゃ、そりゃ、詳しくもなるし交渉事もうまくなる。「一回だけやってくれ」と押し出されてきた他の役員とはレベルが違ってきて、組合員に頼られるだけじゃなくて、役員にも頼られるようになってしまう。だんだんと「じゃあ、こうしましょう」という私の発言が議論されることなく「君が言うなら、そうしましょう」になることも増えて行く。独裁だよねぇ~。
 「これはいかん」と思ったのは、自分のリタイヤに想いを馳せた時ね。「どうするんだよ、俺だってずっとはできないんだぞ」に対して「後継者を作っておいてくれませんか」と言われて、「お前らは、半島の北の方の国民かよ」なんてね(笑)。

フィデルの言葉を借りると「地獄の業火に焼かれる」中には私もたぶん居るんですよ。そして、それを選択したのは、自分なんだということも、たぶん、一番良くわかっている。

by 技術開発者 (2016-05-11 10:35) 

pooh

> 技術開発者さん

王、とも違うしなぁ。
なんと云うか「チャンピオンの孤独」ですね(Championと云う単語が第一義としては「擁護者」の意味を持つのを、ぼくは何年か英国系の企業に勤めていたときにはじめて知りました)。
by pooh (2016-05-11 18:51) 

技術開発者

こんにちは、poohさん。

>Championと云う単語が第一義としては「擁護者」の意味を持つのを、ぼくは何年か英国系の企業に勤めていたときにはじめて知りました。

 確かに「擁護者」の意味はあるんだけど、語源から考えるとちょっとイメージが違う気がします。「(仲間を)擁護して敵の(擁護者)と戦う者」という事で、その戦いの場である平原を意味するラテン語campusから派生していますからね。
 まあ、私みたいに仲間もなかなか学んでくれない労働に関する法律の知識を駆使して、仕事場の労務担当役員とやりあったりしているとその部分ではイメージが合致しちゃうんですけどね。

 じゃあ、他にどんなふさわしい言葉があるのかって言われたら、実は思いつかない(笑)。

 やる気は全くないジョークだけど、「定年まで終身執行委員長をやってやるから規定をそういう風に改正して選挙を止めよう」「終身執行委員長は会議を経ずに活動を決定できる全権委任規定にしよう」と提案したら、うちの労組大会は可決しちゃうんじゃないかと思うとゾッとします(ヒトラーだよね)。たぶん反対してくれる人がある程度はいると思うんだけどねぇ(笑)。

by 技術開発者 (2016-05-12 17:24) 

pooh

> 技術開発者さん

> (仲間を)擁護して敵の(擁護者)と戦う者

本題に戻れば、フィデルには適切な形容ですね。良し悪しはともかく。

なんと云うか、献身、と云うのも善意にも似たやっかいな部分があるのかな、なんて思ったり。
by pooh (2016-05-12 17:50) 

技術開発者

こんにちは、poohさん。

>本題に戻れば、フィデルには適切な形容ですね。良し悪しはともかく。

私に言わせると、(仲間を)擁護して敵の(擁護者)と戦う者ではない革命家なんてほとんどいない気がするんですね。ただ、革命が終わり、独裁しか道が無い時に「権力の毒」に冒されない革命家もほとんどいないだけかも知れません。

 ご存知かどうか分からないけど、TVの「しくじり先生」という番組で「マルクスのしくじり」なんてのが流されて、「マルクスは格差の無い社会を目指して『資本論』を書いたけど、詳しい共産主義社会の姿を示さなかったからしくじった」なんて、詳しい人間からみたら「おぃ、おぃ、」という説明だったので、ネットで話題になっているのね。
 私なんかも最初、「マルクスとレーニンとスターリンがごっちゃ混ぜだ」と思ったんだけど、ネットでは「格差の無い社会ってできないものでしょうか?」なんて感想を持った人も結構いるみたいで、「不正確だけど、とっかかりの興味を持ってもらうという意味では、これも有りかなぁ」くらいに意識変更したのね。

 でもって、まあ、多少あちこちで「資本論はマルクス、ロシア革命はレーニン」なんて説明を書いたりしたのだけど、ふとレーニンのことなんかも考えたりするんですよ。ロシア革命は2回に分けられて、労働者が帝政を倒した2月革命と、革命勢力のなかでレーニンたちが他の勢力を圧倒した10月革命ね。歴史に「たられば」は無いのだけど、もし2月革命だけで終わったら、どんな歴史になったのだろう・・・、なんて考えたりしてね。
 私に言えるのは、フランス革命みたいには、たぶん、なっていないだろうということです。ロシアというのは、19世紀半ばまで「農奴制」を引っ張った国なんです。産業革命も国家主導だったのでブルジョア階級すらまともに育っていないのです。武装勢力の群雄割拠になるか、それを統一する新たな帝政が起きるのか、少なくとも、民主主義に向かうには、その意識の醸成が少なすぎると思うんですね。

そういう意味ではレーニンだって「革命の後の自分に残された道」を歩んだのかも知れないと思ったりするんですよ。

by 技術開発者 (2016-05-13 16:07) 

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