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フィギュアスケート2011年全日本選手権 [みたもの、読んだもの]

やっぱりまぁ、今年も全日本は戦いの場であって。でも、例年の全日本とはいくらか違うニュアンスもあったように思う。へんな話それは女子シングルで云えば、端的に安藤美姫の不在、とか。

新採点になって、フィギュアスケート選手にそれ以前よりもよりいっそう総合力が求められるようになって、同時にその選手の優れたポイント、個性が数字として評価されるようになって。いい悪いは別として、なにかしらピーキーな側面を持つ選手がそこで勝負する、と云う意味合いが薄れてきたのだな、と思う。
結果、天才肌の選手がそのままその個性をむき出しで勝負する、と云う部分は、競技に向かう姿勢として減っているのかもしれない、みたいに感じたりする。女子で云えば、かつての村主章枝、恩田美栄、太田由希奈と云った「セールスポイントで勝負」みたいな選手が活躍していた時代とは、なんとなく違う(荒川静香のような「万能選手だけど大波賞」みたいな選手とか、浅田舞みたいな「いいんだけどどこがいいのかよくわからない」みたいな選手もあまり見られない)。
安藤美姫みたいな、荒削りでも突出したポイントがいくつかあってそれがはまると怖い、みたいな選手が少なくなって、例えば佳菜子みたいな新採点育ちの、万能が前提、みたいな選手が増えて。これがいいことなのかどうなのかは、よくわからない。ただ、競り合いとして見てみると、なんとなく競うポイントが多すぎて(結果として細かすぎて)、お気楽に見ていてもあまり楽しめない、みたいな部分が出てきているようにも思う。ついでに云うとこうなると、真央のような「最初から高水準で万能」みたいな選手が強いのは当然だし、ある意味望ましいこと、だよね。
闘争の場、としての全日本選手権は、なにも変わっていないのだし(ただ、これだけ点の辛い全日本、と云うのもちょっと珍しいかも)。

とは云え前シーズンからの真央のプログラムには、やっぱりあまり興味が持てなかったりする。ここはもちろん個人的な興味の方向、と云う話なんだけど、このまま円熟に向かわれても、なんだか面白くない。いやもちろん優勝にはなんの疑問も異論もないのだけれど、要は「安藤美姫がいないのでこう云うプログラムでも優勝できた」と云う以上のものではなくて、それは(全日本と云う大会の性格までを考え合わせると)戦略としては絶対に正しいのだけれど、でもつまらない。
まぁ逆に、同様の戦略を取ることはおそらくできないであろう世界選手権が楽しみだ、と云うことでもあるけどね。

自慢じゃないが世俗的な観戦素人であるぼくとしては、庄司理紗についてはなによりもその美貌と、あとは雰囲気で惹かれていたのだけれど。でもはじめて今季、その雰囲気を醸し出している要因となっている大きな美点に気づいた。うつけのジャンプを連想させる、ひざを効かせた猫のようなやわらかいランディングは、これからも武器にできると思う。

全日本で戦う、と云うのはそもそもこう云うことなんだなぁ、と思わされたのは佳菜子の演技。と云うか、まぁ無邪気でいられなくなるのは当たり前、なんだよね。誰もが通ってきた道(なぜか真央だけは迂回できたわけなんだけど)。でもまぁこれでこれから、おとなのスケーターになるのだ。きっと世界選手権は、もっと楽しいはず。

鈴木さん、なんだか歯車が狂うようになってきちゃったなぁ。難しいもんだ。
ただそれでも、FS一位は確保。世界選手権では日本人女子シングルの背骨、みたいな立ち位置をどうしても求められるのかもしれないけど、それはそれとして気楽にやってほしいな、みたいに勝手に思ったり。

男子はなんか、「たいていの国際大会よりもシビアな国内大会」としての全日本を如実に示したような結果になったように思う。復活の無良くんも村上くんも町田くんもデカも、だれもが持ち味を充分に示した演技ができていたと思うんだけど、それでも4位の町田くんと3位の結弦のあいだには30点近い差。
3強がワンツースリー、と云うのは妥当な結果にも見えるんだけれど、でもよく考えると(うつけが欠場してるってだけで)その3強にあたりまえのように結弦が収まっていて違和感がない、と云うのもなんかすごいなぁ。

小塚くんがなんか壁にぶちあたっているのはわかる。わかるけど、それがはっきり見て取れる壁じゃないのが、なんだか見ていても歯がゆい。彼のいいところはいいところとしてなんか当然の前提みたいになってしまって、そこになにを盛れるか、みたいな闘いになっている。でもまぁそこをあっさりと乗り越えられる、例えばPチャンみたいな選手のほうが、当然ながら例外ではあるのであって。逆にソチに向けて、どれだけ壁を探せるのか、と云う部分もあるのかも。
なんとかそこまで、折れずに進んでいって欲しいなぁ、みたいに思う。

そこのところでもう絶対に折れたりしないだろう、みたいに思わせるのが高橋大輔で、でもかつての彼の姿を思い起こすとなかなかそのへんは感慨深かったり。今大会では正直見る側としてもぜんぜん満足できるような演技じゃなかったけど、それでもちゃんと世界選手権に照準をあわせて立ち直ってくることができる、みたいな信頼感みたいなのをどこかで感じさせる。
このへんの、貪欲さと油っけの抜け加減の兼ね合いがなんだか最近の彼についてはへんに趣深いのだけれど、それでも間違いなく日本人男子シングルの惣領としての貫禄は、今大会の演技からさえにじみ出てました。変なやつ。

なんかあいかわらず羽生結弦は内面だだ漏れで、笑ってしまいそうになるほど。それがいい、なんて云っちゃいけないわけだけれど、はみ出る部分を削って丸くするよりは、その間隙を充実させて大きな丸にするほうが望ましいのは当然のことでもあって。そのためにも、牙は削るものじゃなくて、研ぐもの。
FSでの最後のステップに入るまえに見せた、その牙をむきだしにする表情だけで、ぼくは正直満足してしまいそうになるのだけれど(やっぱりぼくは選手の闘争心があらわになる瞬間に弱い。安藤美姫にどうしても惹かれるのもその部分だ)。でも全体としてバランスを欠いたままでは勝てないのが趨勢なのは、チェコのトラが体現してしまっているのだ(ひどい云いかただけどね)。
まだ完成していない、成熟していない。それが羽生結弦で、いまはそれでいい、と思う。歩みを止めることさえなければ。
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古原

全日本の感想、お待ちしてました。

フリーのあの表情、それに付け足すとすれば3Aからの3連続だけで私もだいぶ満足でした。
今回のショートを見ても、やはり羽生結弦は周囲の選手の(あるいは自分の)闘争心を煽る選手なんだなぁと改めて思えてしまいます。
見る人を熱くさせるのも勿論ですし。ワールドも是非このまま行ってもらいたいですね。

背が伸びることのメリットについていつかのコメントで言及されていましたが、今シーズンは本当にその辺りの影響を感じます。
ロミオを去年やっていたらこういうプログラムではなかったでしょうし、逆に今白鳥の湖を滑ってもそれはそれで素敵なんだろうと思うんです。
それだけに今回はショートがついてなかったな、と思わずにはいられないんですけどね(笑)

>でも全体としてバランスを欠いたままでは勝てないのが趨勢なのは、チェコのトラが体現してしまっているのだ(ひどい云いかただけどね)。

個人的にはブレジナよりベルネル派です。
アボットが戻ってきた今、ここにベルネルがいたら(ジュベールは仕方ないとしても)何年か前のファイナルの面子が揃うのになぁ、なんてひとり期待してます。
by 古原 (2011-12-26 15:57) 

pooh

> 古原さん

> 3Aからの3連続

あれはみごとでした。
いまはジャンパーじゃなくても、表現の要素のために「ジャンパーの資質」を求められる時代なのですよね。

> やはり羽生結弦は周囲の選手の(あるいは自分の)闘争心を煽る

へんな話なんですが、そう云う選手がいるかどうかで、やっぱり大会の空気は変わってくるんですよ。今大会でも、安藤美姫の不在と云うのはそう云う影響もあったように思うんです。

でもまぁ、そう云う選手はそもそもあんまりいないんですよね。ジェーニャとか、ブライアンとか。女子だとあとはサーシャとか、かなぁ。

> 個人的にはブレジナよりベルネル派です。

ぼくもトマシュは好きですよ。あの喧嘩腰と、それと相反するような独特の、なんと云うかちょっと一部の北米の選手と共通するような上品さ、みたいな部分が。
by pooh (2011-12-26 20:28) 

pooh

なんかちょっとぼかした云い方だったけれど、大輔のSPでの4T-3Tは事実上結弦に挑発された結果、だったみたい。
古原さんのおっしゃるとおり、なんだなぁ。
by pooh (2011-12-26 20:56) 

hina

はじめまして。hinaと言います。
私はそんなにコアなフィギュアファンではなくて、ジャンプの飛び分けもよくわからないくらいなのですが、バンクーバーでの真央選手を見てすっかりファンになってしまった者です。
昨季の愛の夢にはとても感動したのですが、今季までなぜ引っ張ったのだろう?と私も不思議に思っていたのです。
昨季の四大陸でひとつの完成を見たような気がしていたので。
なので今季はちょっと物足りないですよね。
ただこのまま円熟にというような選手ではないと個人的には思っています。
表面上は静かな湖のようですが、彼女ほど内に秘めている選手もいないかなと思っているので。
五輪シーズンに見せたような彼女の内に秘めたるものの発露をまた期待しています。

羽生選手に関しては同感です。とても好ましいですよね。ともすれば嫌みになってしまうところですが、彼にはそう感じさせない品の良さがあるように思います。

突然コメントすみませんでした。。ちょっと思うところがあったので。
以前よりクレバーな印象を受ける文章を書かれるなぁと思って時折のぞいていました。
また記事を楽しみにしています。
by hina (2011-12-27 13:34) 

pooh

> hinaさん

いらっしゃいませ。

去年コメント欄でも指摘いただいたことなんですが、真央については今季は去年から取り組んでいたジャンプの修正を完了させるシーズン、なんだと云うこともあるんだと思うんですよ。それはそれで、その修正用のプログラムとしては2年同じものであるのも、まぁわかるんですよね。

それはそれとして、当のそのプログラムが、ぼくには保守的なものに思えてしかたないんです。真央は「鐘」を滑れるのですから。

> 表面上は静かな湖のようですが、彼女ほど内に秘めている選手もいない

これを表出させるためには、やっぱりチャレンジャブルなプログラムは必要だと思うんですよ。ただまぁこれも、ぼくがフィギュアスケートを基本的には表現としてしか見ない、いびつな視聴者だから、と云う部分はあるんですが。
でも、これってどうなのかなぁ。伯楽の仕事、と云う気もしなくもないですが、信夫先生の判断なんだろうからなぁ。

> ともすれば嫌みになってしまうところですが、彼にはそう感じさせない品の良さがある

ぼくの場合彼については、ともすればあまり見方がフェアでない部分があるんですけどね。
ただ品の良さ、と云うかまっすぐさが、彼の言動をいやみなく見せているのかな、と思う部分はあります。競うとは云え最終的には自分との闘いである、と云う採点競技としてのフィギュアスケートの性格、と云うのもあるのかとも思いますけどね。

それはそれとして今季FSの最後のステップは、「戦闘型ロミオ」だの「鬼の形相」だの「ジュリエット早く逃げて」だの云われてて笑いました。
by pooh (2011-12-27 21:01) 

hina

お返事ありがとうございます。
真央選手については私も同じように感じています。
ジャンプの矯正がやはり一番の理由なのかな、と。

愛の夢はたしかに保守的だったかもしれないですが、鐘をやった後だからこそ生きてくる美しさというものもあったと思います。
まぁただ今季の愛の夢はなんか薄いんですよね。見慣れてしまっているからというよりかは、むしろ昨季とは受ける印象が違うんです。なんだろう。。うまく言えないんですけど。すみません。

どういう見方が真っ当なフィギュアスケートの見方なのか私にはわかりかねますが、チャレンジャブルなプログラムを彼女に求める気持ちはわかりますよ。新たな一面ということでわかりやすい部分もありますし。出来るはず、という期待もありますし。
なので昨季私はここであえて愛の夢なんていう優美な曲をやるんだ。へぇ〜と思ったのでした。そういうチャレンジもあるよなぁと。深読みかもしれませんが。
で、今季フリーは引き続きでSPも目新しくもないプリンセスって感じです!とかで、うーーーん、物足りん。と思ったのでした。

気が早いですが彼女に関しては来季どのようなプログラムになるかが楽しみですね。そこが本当に分かれ目かなぁと。

羽生選手いろいろ言われていますよね、皆殺しロミオとか笑 
ネットの人たちはおもしろいですよねー。ニコニコ動画とか見るとなんかすごいなって思います。みんなナナメから見過ぎですよね。面白いんだけど。

私は本来激情型というか、闘志が見え過ぎているタイプはあまり得意じゃないのですが、羽生選手は好きなんですよね。
そういう熱さの中にもどこかひんやりしたものを感じるんですよ。
ただ私もちょっと彼に関してはフェアな見方ができないんですよね。
ただかわいいだけじゃない、ちょっと危うい魅力を感じる美少年であるなぁと思ってまして。。いやはやすみません笑
by hina (2011-12-27 22:31) 

pooh

> hinaさん

> なので昨季私はここであえて愛の夢なんていう優美な曲をやるんだ。へぇ〜と思ったのでした。

あぁ、まぁそう云う捉え方もありますよね。ただ、ぼくには「愛の夢」を滑る真央が、どうしても「浅田真央のまねをしている」みたいに見えてしょうがないんですよ。
技術面でいたずらにチャレンジャブルであることを、ぼくはけしていいとは思わないんですけど(ところでこれまでトリプルアクセルを封印してきたのは、「安藤美姫もヨナ・キムもいない大会ならそんなリスクを冒さなくても勝てる」と云うだけの話だと思うんですけど)表現面ではつねに新しいことに挑戦してほしいな、みたいに感じてしまいます。

> そういう熱さの中にもどこかひんやりしたものを感じる

前にも書きましたが、競技者としてのクレバーさは、小塚くんに匹敵するものがあると思うんですよ。でも、そこに留まらないし、留まれない。

> ただかわいいだけじゃない、ちょっと危うい魅力を感じる美少年

ここのコメント欄にもいらっしゃるあるブロガーの方が、「ドラマでこう云うやつが出てきたら絶対に極悪で冷徹な悪役だ」みたいに書いていてちょっと笑いましたけど。
by pooh (2011-12-27 22:57) 

古原

横槍のようなタイミングでごめんなさい。

>今大会でも、安藤美姫の不在と云うのはそう云う影響もあったように思うんです。

やっぱり安藤選手がいないとすこーし盛り上がりに欠けるかな、なんて思ってしまいます。特に去年の「レクイエム」の凄さは忘れられません。
もちろん女子も厳しい戦いだと思うのですが、男子(織田くんが出てないとはいっても)の火花を散らす感じと比べるとどうしてもこう、私には勝負、という風にはあまり映らなかったんです。

浅田選手ですが、それこそpoohさんのおっしゃるとおりで、「3A抜きでも勝てる 」のは純粋にいいことだと思います。ただ、

>それはそれとして、当のそのプログラムが、ぼくには保守的なものに思えてしかたないんです。真央は「鐘」を滑れるのですから。

これとまったく同意見です。
あのプログラムの印象が強すぎるせいか、見ていてなんとなく物足りなさを感じてしまうんですよね。
「愛の夢」はどちらかというと既成の「浅田真央」のイメージの内側で演じているような気がします。この例えでいくと、その外側にあったのが「鐘」なのかなぁと思うんですよ。


by 古原 (2011-12-28 11:24) 

pooh

> 古原さん

あんまり、競技としての戦略論みたいな話は得手ではないんですけど。

今大会の男子シングルで、クァッドにトライしないことは、それだけでそのまま「結弦に負ける可能性」を意味したわけです。うつけがでてないとは云え町田くんも無良くんも村上くんもいるわけですから、表彰台を考えても大輔も小塚くんもぜんぜん安泰ではない。

それに対して、真央はトリプルアクセルにトライするリスクを冒さなくても優勝できるし、まず表彰台は逃さない。やっぱりこれは端的に云って、安藤美姫の脅威がないから、です(あと村主さん、とか)。戦略的には明らかに正しいし、この面でぼくは信夫先生の判断を支持しますけど、ゲームとして大会全体を見た場合にいいことなのか、はちょっと微妙かも。

> 「愛の夢」はどちらかというと既成の「浅田真央」のイメージの内側

まぁ、まっとうな選択だ、とは思うんですよ。世間のあまたの「真央ちゃん」ファンが求めているものを提供している、と云うことなので。だからここはやっぱり嗜好の範疇、なんだろうとは思います。
優劣を競う競技である以上、当然ながらすべての選手に、例えば大輔みたいな意識のありどころを求めるのはへんな話でもあるわけですし。
by pooh (2011-12-28 12:12) 

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