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被災地ビジネスの一方法 [近所・仙台]

河北新報の「みそが放射線防御」 仙台で健康セミナーと云うエントリを読んだ(河北新報の記事は読めなくなっちゃうので、魚拓を探したらこちらにあった)。

いまも大人気の伊達政宗ってのはたいした御仁で、まぁほぼひとりで伊達六十二万石の礎をつくって、今日の仙台の原型を構築した、って云ってもまぁ過言ではない。で、仙台と云う土地のユニークなところは、基本的に400年間、その枠組みからはずれるようなことをほとんどだれもしてこなかった、と云う部分(このへんは司馬遼が街道をゆくでも書いているので、新鮮みのある話でもなんでもないけど)。
ともかくお上が勃興の基礎をつくって、その運用を免許をもらった商人が廻す。いちばんえらいのがお上で、つぎが旦那衆。エスタブリッシュ万歳、って体質が、じつはいまも続いている(のが、仙台でビジネスをやっていれば感じられる)。
 宮城県味噌醤油(みそしょうゆ)工業協同組合主催の「仙台みそ健康セミナー」が24日、仙台市青葉区のホテルメトロポリタン仙台であり、広島大原爆放射線医科学研究所の渡辺敦光名誉教授が「味噌による放射線の防御作用」と題し講演した。
 渡辺氏は放射線に対するみその防御効果を、マウスを使って研究している。講演では強い放射線を照射後、みそを10%加えた餌を1週間前から食べていたマウスは、放射線で傷ついた細胞の再生が見られたことなどを説明した。
仙台味噌がそもそも有名になったのは、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、ほかの地域の味噌と違って品質の劣化が少なかったことから、らしい。味噌はそもそも調味料ではなく食べるもので、当時は兵糧として重要な戦略物資もあって、政宗どんは御塩噌蔵って云う官営の味噌工場もつくらせたりした(いまの桜岡公園あたりだったと思う)。まぁなにが云いたいのかと云うと、そう云う物資を伝統的に扱ってきたひとたちの団体である宮城県味噌醤油工業協同組合ってのは旦那衆のセレブな寄り合いであって、でもって河北新報ってのはそもそもセレブのご意向を反映したがる体質のある新聞だ、ってこと。そう云うわけで、
 渡辺氏は「照射直後にみそを与えても効果はなく、継続的な摂取が大切」などと強調。「みその中の塩分は単独の塩とは違い、血圧を上げない。1日2杯はみそ汁を飲んでほしい。熟成期間が長いほど効果がある」と話した。
主催が主催だからこう云う結論になるのはまぁ当然だけど、その結論をなにも考えないで載せてしまう新聞も、まぁそもそもその程度のもの。

渡辺敦光名誉教授ってのがどんなひとなのかはよくわからない。どらねこさんのところでなんか情報はないかな、とか思ったんだけど見つからない。名前でぐぐると、最初のほうにでてくるのはそれこそ「味噌で放射能を防ぐ」系の研究ばかり。石井味噌って云う長野の味噌屋がこっちとかこっちにうれしそうに研究の概略を載せているところをみると、味噌屋と組んで商売する、と云うのはけっこうながいことやってるみたい。なんか味噌屋の業界誌に味噌による放射線防御作用(PDF)なんて記事を載せたりしてる。あとなぜかIAEAのサイトに発酵食品並びに成長因子を用いた放射線障害の防御作用の開発なんて論文が載っていたりするけど、どちらにしてもマウスの実験しかしてないみたい。こう云うのはどう評価すればいいのか、と云う部分については、どらねこさんが根拠のない放射線対策チラシが配られていたようですと云うエントリでお書きになっているあたり(まず、味噌が放射線に効果があるとした実験ですが、動物実験であり、しかも信頼性の高い学術誌に投稿された論文ではありません。)が適切な判断だと思う。

そんなに味噌喰って塩分大丈夫か、って気にもなるけど、このひと「味噌の塩分は大丈夫」ってのも云ってるみたいで、それこそ宮城県味噌醤油工業協同組合がサイトに載せている。至れり尽くせり。やっぱりラットの実験の話だけみたいだけど。

この講演について、お聴きになったらしいココさんがお味噌と放射線と云うエントリをお書きになっていて、内容にいくらか触れている。
講師は広島大学名誉教授の渡邊敦光さん。お話の要旨は前半が「わかってるデータからは、今の状態では健康への影響はないと思われる」、後半は「一日2杯具だくさんのお味噌汁を」だった。ラットのえさにフリーズドライのお味噌を混ぜたら効果が認められたし、人間についても効果が認められる疫学的データは少しずつ出てきているそうで、中でも熟成期間が長い味噌の効果が大きいとのこと。
有効成分と考えられるものの一つは、味噌の色のもとでもあるメラノイジンだそうだ。だとすると、熟成期間が長くて色が濃いのが特徴の仙台味噌は申し分ないじゃん(^^)
人間についても効果が認められる疫学的データは少しずつ出てきているってあたりが気になるところ。

どんなもんかなぁ。しょせんは味噌なので、そうそう簡単に直接の健康被害に結びつくわけじゃないだろうし。高級な味噌を使っても、それで生活が傾くなんてのはそうそうないだろうし。
ただまぁとりあえずちょっと感じたのは、そうとう復旧したとはいえ被災地の現場で、こう云うなまなましいことがらまでをビジネスの材料としなきゃいけない現状、って云うのはなんか複雑な気分にさせるものだなぁ、ってこと。いや、いまこの近辺のビジネスは支援金や助成金にハイエナのごとく群がるか、情に訴えてなんとか他の地域から金をもぎとってくるか、だけでほぼ廻っているので、しかたないのかなぁ、とも思いつつ。
タグ:近所 仙台
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どらねこ

おはようございます。
リンクいただき、ありがとうございます。
こういう話で悩ましいのは、そんな有るか無いのか分からないような健康効果に頼りたくなるような状況なのですよね。
商品本来の魅力があるにしても、一回は食べてもらわないと始まらないので、その切っ掛けとして期待してしまう気持ちも分からないではないです。
でも、こんな話を聴いた方々は、この味噌の話と同じ構造を持つ別の伝統食品についても同様に捉えることでしょう。
そうなると、『たかが味噌だけ』の話では無くなるわけで、そのあたりがアタマの痛いところなんですよね。

この事例には役所は関わっていないと思いますけれど、食品関連研究に於ける産学官連携研究の問題点はまさしく此処にあると思っております。
by どらねこ (2011-08-27 09:29) 

pooh

> どらねこさん

> そんな有るか無いのか分からないような健康効果に頼りたくなるような状況

そうなんですよね。
そしてそれは、企業からするとビジネスチャンス、なんです。コンプライアンスなんかを云々していられる状況でもない、となると、乗っからざるを得ない。そもそも企業にモラルは内在しないので、そこを論じてもむなしいですし。

> 『たかが味噌だけ』の話では無くなる

微妙なのはこのあたりで、結局ぼくなんかのスタンスだと「たかが味噌」で済めばそこは容認してもいいかな、みたいに思ってしまうんです。でもそれが、いろんな事柄への道を舗装してしまう可能性がある。

> 食品関連研究に於ける産学官連携研究の問題点はまさしく此処にある

あぁ、なんかわかります。
大義のありどころが違うもの同士の、その部分に目をつぶった連携、ですものね。
by pooh (2011-08-27 13:48) 

mohariza

話しが外れるようですが、
私は、<産学官連携研究>なるものは、大学の堕落に繋がるように思っています。
電力会社の資金による「原子力発電擁護」研究しかり…。
金を貰って、資金源の会社に不利な研究発表など、実際、あり得ません。

大学の真摯な自由研究(:追求)は、文科省及び大企業に依って、現代、脅かされていると思います。
by mohariza (2011-08-27 18:23) 

Jem

うぷぷ。
「手前味噌ですが」って前フリはなかったの?
by Jem (2011-08-27 21:45) 

pooh

> Jemさん

あったかもしれませんなぁ。程度の低いことを云えばフランクな印象を与えられると思ってるげすな旦那衆の多い土地柄ですから。
by pooh (2011-08-27 22:30) 

pooh

> moharizaさん

大学、と云うものの位置づけをどう考えるのか、と云うのもあると思います。教会とギルドから始まった欧州の大学とアメリカの大学では違うでしょうし、どちらに倣うか、と云うのもあるかと。
と云うか、自社の利益にならないことに金を払う文化は、うちの国の企業にはないですし(と云うか基本的にはどのような種類の文化も、企業にはないんですけどね)。
by pooh (2011-08-27 23:03) 

Katase

渡辺敦光名誉教授から、私の「あやしい放射能対策」に対するクレームが来て、それに対する返答をしました。

>人の発癌性や安全性を検討するために2年の発癌研究が厚労省から指針が出て、その指針に則り研究が行われています。「とくに、低線量被曝で心配されるのは被曝後10年以上経過してから現れたりする癌などの病気であり、寿命が3年くらいしかないマウスではそこまで調べられない。」この記載は誤りです。

私の「とくに、低線量被曝で心配されるのは被曝後10年以上経過してから現れたりする癌などの病気であり」という指摘は、チェルノブイリでの(補足:広島・長崎の原爆被曝者も含む)健康影響についての調査結果によります。

厚労省からの発癌研究の指針とは、カテゴリーが全く違っています。
混同されないようにお願い致します。

>又「あまり味噌を食べすぎると塩分が心配でもある。」とありますがこれも気になります。私たちのWatanabe H et al Hypertension Research 29, 731-738, 2006.の中には人の疫学の結果味噌を食べても血圧が上がらないということをDiscussionの中に入れていますので一度お読みになって下さい。食塩感受性のラットを使うと味噌群は血圧が上がりません。胃癌についてはHIrayama T先生のNutrition and Cancer 3, 223-233, 1982に味噌を沢山食べる人は胃癌が少ないという疫学結果が出ています。

私が懸念しているのは、味噌を食べれば「放射能の排毒」ができると、通常の範囲を超えて食べ過ぎることを懸念しています。一般の過去の疫学調査では、その様な人はほとんど入っていないのではないかと思います。
味噌を通常の何倍も使ってドロドロの濃い塩辛い味噌汁を何倍も飲み続ける人は普通にはいませんが、「体に良い」といわれると、常識を超えた濃いものを作ったり、味噌そのものをできるだけ食べようとする人が出てしまうかも知れません。たまに、そういう「健康の為には死んでも構わない」という様な行為に走りやすい人達は存在します。

参考:「フードファディズム 食べ物に特別な効果を期待するのはやめましょう 松永和紀 なるほど食卓の安全学」(PDF) 
http://nagano.coopnet.or.jp/study/img/socia/201109/p11.pdf

(特に、「強い不安」が背景としてある場合は、効果があると信じる食べ物を沢山食べでその不安を解消しようとして偏食となってしまう懸念があります。今回の放射能への恐怖は、それに繋がるおそれがあるのではないかと気になっています)

ラットを使った実験は、あくまで人に適用する前の予備実験でしかなく、そのまま人に当てはめて考えることはできません。

味噌を沢山食べる人は胃癌が少ないという疫学結果も、30年も前に出された1報だけでは心もとありません。
また、因果関係にも疑問の余地があります。
よくありがちなのですが、「味噌を沢山食べる」から「胃癌が少ない」と短絡しても良いのでしょうか?
「味噌汁が付く和風の料理」をよく食べる人は、全般に健康に気遣い食生活のバランスが良くてその結果「胃癌が少ない」のかも知れません。

「朝食を食べる子」は、「成績が良い」と単純に解釈してしまう危うさと同列のような気もします。

味噌で放射線対策をしようとする点につきましたは、とらねこ日誌「1986年の原子力発電所事故後に味噌の輸出は急増したのか」も参考にどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110722/1311323828

その後、渡辺氏から反論は来ていません。
by Katase (2011-09-04 08:33) 

pooh

> Kataseさん

うわぁ。

> ラットを使った実験は、あくまで人に適用する前の予備実験でしかなく、そのまま人に当てはめて考えることはできません。

たぶん、ここがキモなんですよね。

> その後、渡辺氏から反論は来ていません。

まぁ、きっとそれはそう云うことなんでしょう。

お書きいただいた内容、できればお手元でエントリに起こして、うちとかどらねこさんのところとかにトラックバックしてくれるとうれしいなぁ。すごく有益な情報なので、もったいない気がします。
by pooh (2011-09-04 08:42) 

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