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「ホメオパシーの原理」の(持ちうる)意味 [よしなしごと]

Cocculusさん(でいいのかな。どう名乗られているのかよくわからない)のホメオパシーの原理と云うエントリを読んだ。山口県の例のK2レメディ訴訟に言及した内容。
ほかのエントリからすると、このかたはこれからホメオパスを目指していらっしゃるように見受けられる。

創始者であるハーネマンがマラリアの特効薬であるキナの皮を、マラリアに罹っていない人が服んだらどうなるかと、自分で服用したところ、マラリアと同じ症状が出てきました。それがきっかけで、摂取すると同じような症状が出る物質を使うと、その症状が改善するという、ホメオパシーの原理を発見したのです。
まずこの原理そのものが、130年前に否定されている。マラリア原虫の存在をハーネマンは知らなかったんだから、まぁしょうがない。このあたりはkumicitさんのゆるぎなきホメオパシーと云うエントリ参照。
そして、治療効果を残しながら有害な症状が出ないように、抽出液を希釈することを考えました。そして希釈を繰り返してなお効果がある濃度のものがレメディというわけです。
その希釈を繰り返してなお効果がある濃度と云うのは、もとの分子がひとつも残っていない濃度。だから現物質の効果は残っていない。分子論が確立されたのはハーネマンの死後みたいなので(だいたい150年くらい前かな)、これもまぁしょうがないのかな。このあたりの説明はhietaroさんがキンケシで字が消えないように、ホメオパシーでは...と云うエントリのなかほどでお書きの内容が簡潔でわかりやすい。

あくまで科学としてホメオパシーを研究していたとおぼしきハーネマンの理論の根拠は、こう云った感じでその後の研究によって否定されていったわけで。べつに科学の進展にともなってある仮説が否定されるのなんて珍しい話でもなんでもなくて、たぶんハーネマン本人が生きていれば、彼自身は受け入れた可能性も高い(ですよね、うさぎ林檎さん)。
逆に彼がいま蘇生して、彼の後継者を名乗るものたちが自分の研究をどんな代物にしてしまったのか、を見たらどうするのかなぁ。彼の死後の科学の成果を無視し去ってホメオパシーの原理に執着した結果、ニセ科学とかオカルトとか呼ばれたり、スピリチュアルなものにされたり「自然」なものにされたりしているおのれの理論の姿を見たら、そうとう憤慨するんじゃなかろうか(改めて憤死したりして)。まさか100年も200年も、自称後継者たちが自分の理論をまるで発展させないままにしているだけじゃなくて、鰯の頭と変わらないようなものにまで堕すにまかせちゃってるわけだから。

とまぁここまでは、ぼくとしても一回このへんを整理したかったから書いた、と云う感じ。いずれにせよ、ホメオパスのとる行動がホメオパシーの原理に照らして正しかろうと誤っていようと、じっさいそのことはあまり意味を持たない。
その助産士さんはビタミンKを与える代わりに、ビタミンKから作ったレメディを与えていたようです。しかし、これはホメオパシーの原理から考えてもおかしな事なのです。
こう云う主張をしたがるホメオパスはいるけれど、そう云うわけでこの主張は無意味だし、ホメオパス同士の党派闘争以外の局面ではとくに論点とする意義はない。その当のおかしな事をしたと思われる助産師は所属するホメオパシー団体から除名もされていないし、団体が公表した声明に準拠するかぎり譴責された形跡もない(どころか、その団体の長は内部向けにはその助産師を「守る」とまで公言しているらしい。まぁ事実上顧客だもんな)。
要するにホメオパシー団体には、ホメオパシーのプロフェッショナルとしての能力を保証する機能・能力はないと云うことだし、プロフェッショナルを自認するホメオパス間で一般に共有すべきとされているような職業上の倫理や綱領のようなものはない、と云うこと。そのホメオパスがどんな教育を受け、どんな資格を持っていようと、その施療の品質や矜持はだれも保証せず、まただれも責任を負わない、と云うこと。
ホメオパスのみなさんは、自己責任による利用を表明する同意書へのサインをクライアントに求める前に、このことをきっちりと伝えるべきだと思う。
西洋医学でも医療ミスが起こりますが、それで今の医学を止めようという議論にはならないのですから。坊主憎けりゃの類のものでしょう。
だっていまの標準的な医療の手法に合理的な理由なく準拠しなかったがゆえの医療ミスは、罰されるもの。で、医学的な手法の標準化は、ホメオパシーの原理みたいにいいかげんなものじゃないもの。医師は最低6年間はみっちりとその勉強をして、最終的には国によってその資質を試されているんだもの。比較そのものがおかしいでしょ。

だれかの比喩のぱくりになるけど(だれだったか忘れた。思い当たるひとは教えてくれるとうれしいです)。
イチローだって三振するけど、でもそれはメジャーリーグで活躍できる可能性がぼくやあなたにも彼とおなじだけある、って云う理由にはならないよね。そう云う話。
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zorori

>西洋医学でも医療ミスが起こりますが、それで今の医学を止めようという議論にはならないのですから。

法律に違反する殺人事件は起きますが、それで今の法律を止めようという議論にはなりませんね。法律に違反した犯罪者が罰せられるだけで。

でも、ギャングのルールに従った殺人事件が起きれば、ギャングのルールを止めようという議論になりますね。
by zorori (2010-10-14 22:51) 

pooh

> zororiさん

ごめんなさい。適切な比喩なのかどうかわかりません(^^;。

このロジックってべつの場所でも見かけたことがあるので、たぶんどこかのホメオパシー団体が所属ホメオパスに教えてるんだと思うんですよ。ただ、これって推し進めていくと「なんにもしなくたって治ることもあるんだし死ぬこともあるんだから、ホメオパシーだっていらないじゃん」ってことにもなるんですよね。わかってるのかな。
by pooh (2010-10-15 07:28) 

うさぎ林檎

おはようございます。

ハーネマンの気持ちはハーネマンに確かめなければわかりませんけど、オルガノンの中で彼は執拗に当時の医療と呼ばれていた行為(瀉血等)を目の敵にして罵っています(そりゃーもうひつこいひつこい)。

瀉血で体の中から悪血を取り除く、異物を埋め込んで潰瘍を作る串線、態と化膿させて膿を出す打膿 etc......

ハーネマンが何に腹を立てていたかというと、患者に苦痛を与え耐えることを強要し体力を奪うことで、治療どころか命の危険に晒しているという点です。ハーネマンは患者に苦痛を与える処置(治療)を憎んでいた、とも謂えると思います。

当時の治療の目的は体の中から悪いものを出す、ですよ。これつまりデトックスですよね?そして、そんなものは治療じゃないとハーネマンは謂ってたわけです。

………お、やぁ?変ですねぇ?ホメオパスっていう人達はクライアントに好転反応のことをなんて説明していましたっけ?

だからって正しいホメオパシーが治療になるワケじゃないですよ、勿論。
by うさぎ林檎 (2010-10-15 09:09) 

かも ひろやす

イチローのたとえはNATROMさんですね。
http://ja.favstar.fm/users/NATROM

by かも ひろやす (2010-10-15 14:54) 

pooh

> うさぎ林檎さん

> ハーネマンは患者に苦痛を与える処置(治療)を憎んでいた

なるほど。このあたり、現行のホメオパシーにいくらか通底するものはありそうですね。まぁホメオパシーは苦痛も、それ以外のものも与えない処置ですけど。

> ホメオパスっていう人達はクライアントに好転反応のことをなんて説明していましたっけ?

このあたりホメオパシーが「自然」を標榜することと密接に関連してくるんですが、源流はどこにあるんでしょうね。マヤズムみたいにハーネマンの思想が起源、というわけではないのかな。
by pooh (2010-10-15 22:03) 

pooh

> かも ひろやすさん

ありがとうございます。なんか納得。
by pooh (2010-10-15 22:03) 

うさぎ林檎

こんにちは。

>源流はどこにあるんでしょうね

月並みですけど、やっぱりニューエイジじゃないでしょうか?

最近「ニューエイジについてのキリスト教的考察 カトリック中央議会」を斜め読みしました。これカトリックの司牧活動者向けにニューエイジを考察した小冊子で、随分以前にFSMさんのところで知って手に入れてたんですけど、つん読してました。きくまこ先生の「とらこさんはニューエイジャー」というコメントを見て慌ててページを捲ってみました。私はニューエイジについてほとんど知りません、流石にこの頃に物心はついてなかったですから。

本は原典は2003年に発表されていて、邦訳が2007年に出版されています。
この本の中でニューエイジのホリスティック医療の一つとしてホメオパシーも上げられていました。
私に教養が足りないために意味を取りきれないのと、あくまでも西洋カトリック側の視点で考察されているので釈然としない部分も多かったです。それでもイマドキの色々な宗教文化が節操なく混在した「スピリチュアル」が朧気ながら理解できました。

ニューエイジって、既存の西洋的価値観・宗教観(主にキリスト教)へのカウンターカルチャーだという理解で良いんでしょうか?
父なるものから母なるものへ、そしてガイアへ。「自然」がキーワードになるのはこの辺りである気がします。
by うさぎ林檎 (2010-10-16 15:45) 

pooh

> うさぎ林檎さん

ううむむ、ニューエイジかぁ。
ぼくも世代的にあんまり近しくない、と云うか、ヒッピーやニューエイジについては、自分の世代には「再解釈されたもの」しかないんですよね。もとネタ、みたいに扱われるくらいまで枯れたものしか(いまを去ること20年近くまえ、Guns n' Rosesのセカンドアルバムを買いにいったら、よくある"Parental Advisory"の替わりに「文句があったらとっとのニューエイジ・コーナーにいっちまえ」みたいに書いたステッカーが貼ってあって大笑いした記憶が)。

> 最近「ニューエイジについてのキリスト教的考察 カトリック中央議会」を斜め読みしました。

これ、猛烈におもしろそうですよね。機会があれば読みたい。

> 「とらこさんはニューエイジャー」というコメントを見て慌ててページを捲ってみました。

なんとなく思いついて、由井寅子さんの年齢を調べてみました。「ヘアー」の日本での初演時に16歳ですね。なんか納得かなぁ。

> ニューエイジって、既存の西洋的価値観・宗教観(主にキリスト教)へのカウンターカルチャーだという理解で良いんでしょうか?

基本的にはそう云うもんだと思っています。ぼくの(パンクス的)偏見からすると、カウンターカルチャーの意匠を利用した「ファッション」ですね。

こう、否定すべきものとして「既存の西洋的価値観・宗教観」を置くわけですよ。で、そこに対立するものをみつくろってくる。距離的に離れた、たとえば東洋的なものなんかは対置しやすいわけです。インドでも中国でも日本でも(区別がついているかどうかさえ怪しい)。
ホメオパシーが西洋発祥にもかかわらず、その利用者が通常医療を「西洋医療」と呼びたがる意識の根底には、こう云うものが透けて見えるようにもたしかに思えますね。否定する対象だからもちろん西洋のものだ、否定するわれわれは非西洋的なのだ、的な理路の安易さが。
by pooh (2010-10-16 18:20) 

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