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ビジネスチャンス [世間]

とりあえず、口蹄疫による災害についてここでぼくなんかがなにか語ることに意味があるとは思えないので、見解は述べない。ネットのうえでもちょっと調べれば信頼できる情報にたどり着ける(信頼できないデマも見つけることができるけれど)。
で、この災害に関する対応についてもいろんな情報がでているけれど、ニセ科学をバックボーンにした各種対処に関する提言、みたいなものも、やっぱり登場している。

比嘉照夫氏の主張するEM菌による口蹄疫対処については、OSATOさんが比嘉さんの「EMによる口蹄疫対策」に苦言を呈すると云うエントリで取り上げている(状況が状況だけに、全体にOSATOさんとしては意図して抑制された書き方をしているっぽい)し、kikulogでも口蹄疫に便乗する人たちと云うエントリがあがっている。
これ、自分の云ってることをほんとに自分で信じてるのかなぁ。信じてるんだろうなぁ。

江本勝氏も「ウィルスは波動の世界に属するものである」と称し、波動療法による対処と国家規模での波動医学への取り組みを訴えかけたうえで、牛や豚に愛と感謝を捧げて締めくくる言説を発している(リンクはしない)。
なお、なぜウィルスが波動の世界のものかと云うと、それが「感染」するものだからで、「感じる」ものである以上物理学的存在ではないからだそうだ。これって、控えめに云っても「自分でうまいこと云ったと思い込んで自分でほくそ笑んでるおっさんの駄洒落」以上のものではないよなぁ。でもまぁこのへんの、レイヤーの相違するロジックの混同、と云うのは彼の言説上の主要な技法なので、いつもどおりと云えばいつもどおり。

口蹄疫にホメオパシーで対処を、と云う言説も散発的にはあって。nofrillsさんのホメオパシーについての下院科学技術委員会の報告書に「懸念」を表明している議員たちによるとこれは本家(なのか?)のイギリスでも言い出しているひとはいるみたい。
ただ大半は殺処分と云う対処についての感情的な抵抗感(これはたぶんだれでもある。ぼくにもある)を表出したうえで、議論の矛先を「不自然な生育環境が家畜の免疫力を損ねている」的な方向に向ける、みたいな展開をしているものが多い印象。各ホメオパシー団体もとくに「ホメオパシーで対処を!」みたいなことは強く云ってはいない。まぁこの状況だと、じっさいにどれだけ実効性があったのかダイレクトにわかっちゃうし、結果はすべて自己責任でつっぱねるのも難しいだろうからなぁ。

こう云うのってたしかに便乗、とは云えるのだろうし、災害にかこつけて、みたいな部分での不快感はぼくも感じるのだけれど、この種の言説をこう云うタイミングで発するひとたちの動機がかならずしも悪意とか経済的な利益にもとづくものだとは云えない部分はもちろんあって、そこにはニセ科学の問題一般につきまとう悩ましさはやっぱりある。
ビジネスチャンス、とか云うと金銭的な利得がからむイメージを払拭できないけれど、いずれにせよ自分の携わる事柄の普及をもくろんでいれば、それが善意にもとづくものであれ、チャンス、と捉えて行動をおこすのは不自然なことではないので、そこでその不謹慎さを詰問してもたぶんあまり効果はない。そこに軸足をおいた対抗言論は、「殺処分するなんてかわいそう」と云う発言と同程度にしか響かない、ようにも思える。いや、これっていつものぼくの言いぐさからちょっとぶれた発言になるのかもしれないけれど。

ただ結局この種の言説については、そこにどれだけの責任が負えるのか、負おうとしているのか、と云う問題は残る。ちょっと踏み込んだ提言をしている比嘉氏にしてもその文中で、「真に受けた人間は結果についても自己責任」みたいな(残念ながら下劣としか云いようのない)言い回しをせざるを得なかったのは、おそらくそのへんがあるからで。
いくら自己責任をうたっていても、現に溺れているものに藁をさしだす行為は容認されるべきものじゃない、と思う。差し出すものがどれだけ信じていても、藁はザイルにはならないよ、と云う部分に、じっさいには最大の問題があるのだ。と云うか、その強度を信じることができるんだったら、それを証明するためのトライアルにも耐えることができるよね、と云う話でもあって。

あともうひとつ、個人的に強く気になる部分。
この種の言説は往々にして、正しい自然とそれに逆らう文明、その結果としての災害、と云うニューエイジの因果論的展開みたいな構図を背景に展開されがちなのだけど、それは潜在的には「天に逆らう行いにより天罰を受けたものども」に向けられた視点に転化しがちなものであるように思う。
そう云うところに因果関係を探してしまうのは人間の性(基本仕様?)とは云え、それは多くの場合だれかを無用に傷つける、不用意でイノセントな発言と結びついてしまうのだよねぇ。
タグ:ニセ科学 EM
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コメント 2

OSATO

こういう人達の言説って、当人達はすっかり信じきってしまっているから、逆にブレないんですね。
特に比嘉さんと江本氏の関係なんか、お互いの理論を互いに補強し合う形で展開されてるのでまさに最強な訳です。
だからこの確信から来る自信の下に繰り出される論に、人々はつい取り込まれてしまうのではないかとも思ったりするんです。
今回のこの件も、(好意的に捉えたとして)彼らにとっては本当に彼らなりの善意からだったのかもしれません。
ただ彼らの発言に共通するものとして、僕なんかは
「それ見たことか」
というニュアンスを感じてしまうのです。
これはまさにpoohさんご指摘の通り、

>潜在的には「天に逆らう行いにより天罰を受けたものども」に向けられた視点

から発せられているからなのでしょうね。
そしてこのような言説に対しては感情的な物言いは通じません。

>意図して抑制された書き方をしているっぽい

さすが、分かってらっしゃるねぇ~。
by OSATO (2010-05-29 01:14) 

pooh

> OSATOさん

> お互いの理論を互いに補強し合う形で展開されてる

結局その部分が「信じる」機能を増幅する部分はあるんでしょうね。でもこれ、メカニズム的にはやっぱりカルトと似てくるような。

じっさいに本人たちが「信じきって」いるのか、はわかりません。ただ、その「信じる」と云うスタンスが、「信じない」ものたちへどのような視線を生み出すのか、と云う部分を考えると、とても憂鬱になったりします。
by pooh (2010-05-30 07:00) 

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