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抽出 [ガムラン]

このアルバムは、以前こちらのエントリで取り上げたスマラ・ラティの日本におけるレコーディング。

ガムラン変幻

ガムラン変幻

  • アーティスト: 民族音楽, スマラ・ラティ歌舞団
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2000/08/02
  • メディア: CD


そちらのエントリで取り上げたアルバムもそうだが、こちらはそれにも増して明解なレコーディングになっている。重複するのは1曲だけで、あとは別のラインアップだ。

ガムラン、というのをどう定義するのか厳密なところは分からないけれど(そしてぼくが取り上げているのは、「ガムランを中心としたバリ音楽」ということになるんだろうけど)、とりあえず複数の人間による打楽器アンサンブルとして捉えると、編成的にはティンクリック(2人くらい)やグンデル・ワヤン(2台を4人で演奏)みたいな小編成からゴン・グデ(60人超とか)くらいまでいろいろな規模がある。一般的にバリ・ガムランと云った場合に連想する(入手可能な)ゴン・クビャールやスマル・プグリンガンで演者数が20人弱〜30人強。この人数が指揮者もなしに一斉にライブ演奏をする。

全体として山城祥二さんがプロデュースするJVCの録音は、このライブ感に高い重点が置かれている(これに対して皆川厚一さんのプロデュースするキングの録音は、もっと演奏そのものを抽出しようと云う考え方に基づいている印象がある)。虫の声やクンダンの調整音などがあえて入っていたりする。つまり、ガムランの音が生成される空間丸ごとをきっちりパッケージしよう、と云う発想な訳で、それはもちろん素敵な手法だ。この録音なんか、虫の声が聞こえてきてから最初のレヨン(トロンポン?)が鳴り始めるまでの濃密な空気感にまずノックアウトされる。

でも、この発想による録音ではぼくたちみたいな素人には、どうしてもディテイルが分かり辛くなる。もちろん本質はディテイルにあるのではなく全体として生成される音空間にある、と云うことは理解できるし賛同もするのだが、聞き込んでいくとどうしても詳細まで把握したくなるし、そうなるとだんだんおのれの耳の性能を恨みたくもなってくる。

おなじJVCレーベルでも、この録音はそう云う発想とはまるで違っているようだ。ヤマサリのメンバーでもある南部宏さんの昔のブログ(こんな素人の云いたい放題がトラックバックされたりしたら恐れ多いのでブログトップにリンク)によれば、録音はアンサンブルの骨格を受け持つ楽器と装飾担当の楽器をそれぞれ別録音したものがオーバーダブされ、しかも楽器ひとつひとつが別の(他の楽器の音が混じらない)ブースで録音され、ミックスされたものらしい。

結果的にこのアルバムで聞けるガムランはそれぞれの楽器の音の粒立ちが際立ってよく、分かりやすい。多分スマラ・ラティと云う楽団がそもそも比較的明快で構造のはっきり見える演奏を行う傾向にある、というのもあるんだろうけど、どの楽器がアンサンブル全体の中でどんな役割を受け持ち、どんなふうに貢献しているのかがとてもクリアに分かる。
ぼく自身は2枚のスマラ・ラティの録音を通して、官能性やスケール感よりも一面ロックンロール的な怒濤のスリルを感じ取っていて、そこが好ましいと感じているのだけれど、そう考えるとこうやって楽器の音そのものをクリアに抽出する、と云う手法は、ある意味ビンゴなのかも。

追記:
ちなみにとても稀なことに、このアルバムのリーフレットにはパーソネルがクレジットされている(担当楽器までは記載がない)。これに準拠すれば、この録音の際のスマラ・ラティは25名。


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