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ロックンロールだって勢いだけじゃないんだ (「サウンドトラック」古川 日出男) [ひと/本]

サウンドトラック〈上〉

サウンドトラック〈上〉

  • 作者: 古川 日出男
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫

サウンドトラック〈下〉

どこかしら散漫な印象の小説だったので、感想も散漫に。

何かを欠いた存在、というのがおそらく神話元型としてあるんだろう。ある行為をなす英雄が、あるものを欠いている、というような型が。隻眼だったり、隻腕だったり。
でも、比較的最近造られた物語を読んでいるつもりのこちらとしては、そのことが何らかの形で解決されることを期待してしまう。単なる象徴であったとしても、物語が語ろうとするものに対して一定の意味を持つことを期待してしまう。そうでないと、裏切られた気分が残る。本来の神話ほどには強い力を持たない物語であった場合には、特に。

誰もが村上龍を連想するらしい。インスパイヤくらいはされていてもおかしくない。
何かの文庫の解説で村上龍の小説をジャズに例えたのは渋谷陽一だったか。ジャズって音楽には、パーソネル同士での力ずくでのねじ伏せ合い、って側面がある気がする。曲ごとに最初にルールを決めて、そのルールの中で覇権争いをする、みたいな(ルールがないと曲が成立しないし、ルールに則らないと誰が勝ったのか聴いてる側に分からない。反則だってルールがあって初めて成立するものだ)。龍さんの場合(ぼくが思うに)テーマは大抵「俺」で、だから彼の長編は要するにいろんな要素をねじ伏せながら「俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺」って絶叫しているような感じがする(だから短編だと「俺俺俺」くらいしか云えなくて消化不良な印象が残る)。
それに較べれば、この小説は確かにロックンロールだ。

ロックンロールはジャズに較べて、テーマの求心力が遥かに重要になる。それがリーダーの強烈な意思であれ、メンバーの合意によるものであれ、全員が同じ方向を向いてからボキャブラリーを選択しないと、とっ散らかった印象しか与えられないものが出来上がったりもする。まぁ、とっ散らかったままでも感動を与えられるパワーを見せつけられる場合もあるが、この小説についてはどうだろう。

正直、「13」や「沈黙/アビシニアン」の方が、そう云う意味ではいいプレイを見せてくれた気がした。

どんな手練が集まっても、それだけではいいロックンロールは演奏できない、自然発生的にいい演奏になることなんて、ないのだ。向かうべきものがまずあって(それが内的なものでもいい)、それで初めて感動の導かれるべき方向が定まるのだ。
そこがはっきりと見えないと、個々の素敵なプレイはレゾナンスとならず、かえって音の隙間の殺風景さだけが目立つ演奏になってしまう。
この小説の中でのエピソードの積み重ね方は、どうもそう云う連想に繋がる。

さて、次は友人から借りっ放しの「Love」だ。


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